花押とはどういうもの?現在でも使っている?

花押(かおう)の由来

室町時代や江戸時代の手紙や証書の最後に描かれているマークは何だろうと思ったことはありませんか。

これは今でいうサインで、「花押(かおう)」といいます。花が咲いたように見える書体から、この名がつきました。

花押の起源は中国ですが、日本では845年の東寺の古文書にあるものが最古とされています。名乗の2字を草書体で書く草名(そうな)に始まり、基本的には名前をもとにして作られました。

武家の花押

鎌倉時代の花押

鎌倉時代になると、幕府の文書に将軍や執権が花押を署するだけでなく、一般の武士も幕府あての誓文や私的な契約書に花押を署するようになります。

源頼朝は「頼」の字の「束」と、「朝」の字の「月」を合わせて花押にしましたが、このようにして作られた花押は「二合(にごう)体」と呼ばれています。鎌倉~室町時代にかけては、公家・武家ともにこの様式を用いました。

時代が下ると、自分の実名に関係なく、父祖の花押と類似した形にしたり、実名の一部を取り入れながら全体の形は父祖の花押に似せたりすることが増えていきました。北条氏では、泰時、経時、時頼、政村、重時などは時政の花押に、時宗、貞時、熙時などは義時の花押に似ています。

室町時代の花押

父祖や主君の花押をまねる風習は、やがて時の権威者の花押をまねる風習も生みました。室町時代には将軍である足利家の花押が模倣され、いわゆる足利様が流行します。
足利様は、尊氏が時政系の花押に全体の形を似せ、自分の元の名前である「髙氏」の「髙」を組み入れて作りました。

一族や子孫をはじめ、配下の武士のほとんどがこれにならい、戦国時代になるまで武家花押は足利様一辺倒になります。

また、花押は署名ですから、本来は名前と一緒に記す必要はないのですが、武士は右筆に文書を作成させていたので、右筆が名前を書き、自らは花押のみを記すことが多くなり、併記が通例化しました。

戦国時代の花押

戦国時代になると、それまでと違って実名から離れた花押が使われるようになりました。加藤清正は、通称にちなんで「虎」と「介」を組み合わせた花押、三好雅康や伊達政宗は鳥から形をとった花押を使っていました。

織田信長は生涯に花押を何度も変えていますが、仁のある政治をする為政者が現れると降り立つという「麒麟」にちなみ、「麟」の字を用いていた時期があります。このような花押を別用体と呼びます。それ以外に「信長」の2文字を草書体で横書きして裏返したものを使っていたこともあります。このように花押の形を頻繁に変えたり、実名を裏返したりしたのは、花押の偽造や盗用を防ぐためでした。

豊臣秀吉は「悉」を用いていましたが、これは「秀吉」の「秀」と「吉」の文字を反切したものです。

花押と印章

彫った花押を押印するものを花押型といいますが、鎌倉時代に始まってじょじょに普及していきます。役職の花押の用法も見られるようになり、役職印と同じ性質となっているものもあります。しかし、花押と印章がどのように使い分けられたかはよくわかっていません。

個人印が花押の代わりに使われるようになったことを考えると、印章は花押より軽いものと思われていたといえます。

16世紀末には1つの文書に花押と印章を併用している例もありますが、江戸時代にはもっぱら印章が使われるようになります。花押の使用は武士が幕府や藩に提出する誓紙などに限られ、日常的に使うものではなくなります。

明治時代になると、政府が人民相互の諸証書に爪印・花押等を用いることを禁止し、実印を使用すべきという太政官布告を発したため、実生活での花押使用は江戸時代で終わりました。

千利休の花押

巷で花押が次第に姿を消していっても、数寄者の間では花押は使われ続けました。茶人の手紙や道具箱、茶杓、香合といった品には、花押が残されています。

茶聖ともいわれる千利休の花押は、4つの系統に分類できます。

ケラ判

おけらの姿に似ていることから付けられた名称。易判とともに終生用いられた花押です。利休はこの花押を所有している茶器と好みの茶器に記しました。

易判

宗易の「易」の字を略したもの。ほとんどが消息に記されていますが、茶杓にも見られます。

横版

晩年に多く用いられたもの。

亀版

亀の姿に似ていることから付けられた名称。晩年の消息に使われた花押です。

利休はそれまでの茶人と違い、茶碗や茶入や花入のほかに棚、盆、卓、蓋置、柄杓、自在などさまざまなものに花押を署しました。
そのことは、弟子たちやその後の茶人に大きな影響を与えました。

茶道具の箱書には、現在でも花押が使われています。

買取・査定と花押

もし由来のわからない骨董品があっても、ひよっとしたら花押が手掛かりになって、誰の作品なのかわかるかもしれません。
「よくわからないもの」と決めつけないで、一度査定に出してみることをおすすめします。
共箱に箱書きや花押があったら、必ず一緒に送りましょう。

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